ピアス物語

私は会社帰りによくコンビニに寄る。

残業後の夕飯を購入したり、自分へのご褒美としてお菓子やデザートを買うためだ。

なるべく時間をかけず自宅から会社の間で、

かつ品揃えが自分好みのとこを探していくと、

おのずと決まったコンビニに行くようになった。

いわゆる、「行きつけのコンビニ」だ。

そして行く時間が大体毎日同じであるため、いつも決まった店員さんを見る。

買い物をしているわけであって、見た店員さんの顔なんて大抵忘れてしまうものなのだが、一人の女性店員の顔だけは覚えていた。

いや、実際はマスクをつけていたため顔はほどんど分からない。

ではなにを覚えていたのか?

耳だ。

彼女は耳にピアスを開けていたのだ。

しかも耳たぶに一つではなく、その上の固いところに三つほど(耳たぶより痛そう)。

それも両耳だ。

「そんなの個人の勝手だろう」という人もいるだろう。

その通りだと思う。

しかし、私は生まれた環境のせいかもしれないが、それに抵抗があった。

ゆえに、「あんなにたくさん開けて痛くないのだろうか」とか

「何か重大な決心の上やったのではないか」とか

「単なるファッションとして気楽に開けたのだろうか」とか、

色々と勝手に考えてしまった。

 

単にピアスを開けているだけでは、わたしもそんなに気にならなかったと思う。

ただ彼女は身長が150cm以下で、女性の中でもとても小柄であったため、

そのピアスがとても不釣り合いに感じてしまったからかもしれない。

また、彼女の接客はとても淡々としていて、悪く言うと不愛想で、

そんな大人びた態度も私の中に印象深く残った理由であろう。

 

ー女子バンドとして、高校生から大学生までやってきた彼女。

 大学卒業を機に他のメンバーはバンドをやめ、就職した。

 しかし、彼女だけがあきらめずバンドマンとして生きることに決めた。

 生半可な気持ちではなく、その覚悟はゆるぎないものだと

 自分に言い聞かせるように、彼女はピアスをつけることにする。

 それは、彼女をバンドに誘ってくれたバンドリーダーのトレードマーク。

 いつも私を助けてくれたバンドリーダー。

 今度は私が彼女みたいになる...その思いを胸に。

 そして、彼女にメジャーデビューした自分を見せて、

 「あなたのおかげでここまで来れた。ありがとう。」

 そう言いたい。

 そんな日を夢見て、今日も彼女はコンビニバイトに奮闘するのであった。

 

....妄想がはかどりすぎた。

しかし、こうやって書いてみると分かることだが、

我ながら偏見がすごい。

まぁ、考えただけなんで許して下さい。

 

私はあまり他人を観察する方ではないのだが、

今回こうやって妄想にふけってみて分かったことがある。

この世界は、自分だけのものじゃないんだなと。

当たり前じゃないかっ!

そう突っ込む人もいるだろうけど、

毎日、自分の周囲の悩みに埋もれてしまって、

色んな人がいるんだってことは忘れがち。

実は、世界は広くて、

色んな人がいて、

ひとりひとりに物語があるのだ。

 

つい先日、あのコンビニに行ったら、

彼女の耳にもうピアスはなかった。

そこには、ふさぎ切れていない穴だけが残っていた。

 

物語は進んでいるようだ。

私の知らないところでも。